『子々孫々脈々と受け継がれる伝統とイノベーション魂 ~事業承継を契機とする経営革新~ 』 小畑畳店様

小畑畳店 新たな畳シリーズ
小畑畳店 新たな畳シリーズ

事業承継に関して中部経済新聞様に記事掲載されました。
事業承継に関して中部経済新聞様に記事掲載されました。

(1)事業概要

◆事業所名:小畑畳店

◆地    域:海津市平田町

◆業      種:畳店

◆代 表 者:38歳(承継者) 

◆事業形態:個人事業

◆従業員数:家族従業員4名

◆事業内容:畳製造修繕施工

 

◆概要:岐阜県海津市で畳店を営む若き5代目が誕生した。

 初代より代々伝承を続け、5代目に受け継がれた伝統技術、畳理念と、代表者の資質である新進気鋭のチャレンジ精神が見事に調和。

 畳は床に敷き詰める物という既成概念を脱却した「畳ガジェット」を開発、顧客に畳の魅力を伝達する新たな流通ルートを「ダイレクト・マーケティング」の手法を実践しながら、販路を開拓するに至った。

 そこに至るまでには家族全員と商工会職員一丸となった事業承継へ向けた取組が存在していた。

(2)相談内容と支援の経緯

 同店は商工会と代々家族ぐるみで深いお付き合いをしてくださっている事業者様だ。

 現代表者はかねてより青年部活動において積極的な事業を展開しており、商工会とは多くの交流があった。代表者の母は店舗の記帳業務を担当し、記帳や決算業務において多くの交流を持たせていただいていた。その記帳業務は事業承継を前に代表者の妻に引き継がれた。

 母娘2代そろっての決算支援・ノウハウ伝承は、この後の事業承継に大きくプラスに働く事となった。商工会と事業者の家族ぐるみの交流という基盤があった事こそが、後述する事業承継支援を円滑に遂行できたポイントであったのだろうと考える。

◆支援の最初のきっかけ

 最初のきっかけは「代表者を息子(現5代目)に引き継ごうと考えている」という会話であった。

 現代表者と先代そして母と妻家族全員で話し合っていきたいとの事であった。

 この言葉が、商工会だからこそできる、経営・税務・金融というあらゆる視点に基づいた事業承継支援を実施するきっかけとなった。

 同支援事例は私が、地元商工会で勤務していた時分から携わっている案件である。異動と同時に別担当者に引継ぎを実施し、今なお同地域の支援室職員として、地元商工会の担当職員と共に継続支援に当たらせていただく事ができている状況は非常に喜ばしい事である。

 

◆支援をはじめるまでの経緯

 売上は安定しているものの段階的に低下傾向にあり、利益率にも悪化傾向が見られた。

 売上を左右する購買ニーズの変化(日本人なら誰もが慣れ親しんでいる畳という文化の異変)が生じているのではないかという仮説と、畳製品製造上の非効率が発生しているのではという仮説に基づき、その原因究明が畳店の売上回復・利益拡大のヒントにつながるのではとの着想を得た。

 そこで後継者(現五代目)に対し、代表者変更を契機に、売上規模の向上・利益率の改善を図ると共に、事業承継を契機にとする経営革新を見定めた事業承継計画の策定を提案、支援を開始する事となった。

 

(3)事業状況と課題

◆経営理念

 先代4代目は国内外有名博物館等の畳表の張替を実演を任され、それら功績から国土交通大臣顕彰を受賞するほどの畳文化人である。

 後継者は父の背中を見て畳の伝統技術を学んできた。父の多大な功績に重責を感じるも、「先代にはできない私だからこそできるやり方があるはず」と伝統は重んじながらも畳の魅力発信に取組んでいきたいと考えていた。

 

◆販売商品

 一般建物向けの畳及び、神社・仏閣座敷畳・特殊畳の製造・販売・施工・修繕を実施しており、その売上が大半を占めている。また、後継者の発案した畳の表や縁を用いた畳小物(畳表のバッグやコースター)の製造販売を実施し、顧客を楽しませている。

 

◆販促状況

 後継者が中心となり自社HP、SNSを開設、継続的な更新活動で訪問数も安定している。積極的なプロモーション活動で、個人消費者からの直接受注が増加しつつある。

 

◆事業上の問題と課題

 後継者の有する「畳の広告塔」になるといった確固たる思い、それに基づく畳小物製造やそれを通した訴求展開等の試みは同店の成長発展に紛れもなく寄与するものと考えられた。

 一方で畳の魅力を伝える媒体である既存商品「畳小物」における生産性の低さ、物としての訴求力の弱さが、畳の魅力発信において足かせとなる可能性を懸念。

 また、記帳業務が後継者とその妻とで完全分業されている事を起因として、後継者の計数観念が不足。また、事業承継に向けた財産権移行方法の検討がなされていない状況であったため以下の支援課題を設定し、それぞれ支援を実施する事とした。

 

【支援の計画内容】

①円滑な事業承継に向けたフォロー

②訴求力を高める新製品開発支援

③販売網を拡大するプロモーション支援

④計画に基づく着実な事業遂行支援

 

(4)支援内容と成果等

①円滑な事業承継に向けたフォロー

ア)財産権の移行支援

 個人事業であるため先代からの代表権移行に当たり株式移転の必要はなかったものの事業用資産の移転(贈与・譲渡・相続)について検討する必要があった。

 過剰な税負担が円滑な事業承継の障害とならぬ様、事業用資産の内、不動産外資産及び事業用債務の引継ぎを無償で実施

 先代名義である土地建物の事業用不動産については、先代所有のまま事業用途として活用する使用貸借を用いる事を提案。地元税理士と連携を図りながら中長期的な所有権移転をフォローする事とした。各種届出支援を行い新事業主が誕生した。

 

イ)経営権の移行支援

 個人事業といえども実質的な経営権の移行には配慮する必要がある。前述の通り先代・後継者を含めた家族ぐるみの円滑な意思共有が図られ、段階的な権限移譲と、経営方針の共有によってシームレスに代表移転を図る事ができた。

 加えて後継者の妻が行う記帳処理と連動したKPI管理の仕組みを提案、月次売上高・利益額を妻が工場内のホワイトボードに記載し、KPIとの差分を情報共有する仕組を導入するに至った。この数字を基に後継者は実績を把握、営業活動をコントロールし、事業上のインセンティブを得る事となった。

 

②訴求力を高める新製品開発支援

 

ア)マーケティング調査の実行支援

 新製品開発を支援するに当たって、畳業界のマーケット特性、アンケートを用いた顧客のニーズ調査の実行を支援する事とした。結果以下の分析結果を検証する事ができた。

・人は畳に関心がなくなったわけではない。生活スタイルの変化に伴った自然減が要因である。

・日本人は変わらず畳が好きである。ただ畳との触れ合いの場は確実に減少していっている。

・日常生活で畳の存在を気にする人はいない(劣化や材質などに思いをはせる人は少ない)

・30代~40代が認識する畳のモノとしての魅力、10代~20代が認識するデザインとしての魅力が畳の認知・普及につながる可能性 それぞれの検証結果を示し、方向性の提案を実施した。

 

イ)デザインコンセプト設計支援

 デザイン設計に当たりターゲット像の明確化の必要性を提案。ペルソナ作成を支援した。

 

ウ)製造ラインにおける生産性向上支援

 畳ガジェットの生産と販売網拡大に当たって、生産性の向上を図る必要があった。畳小物の生産工程分析を支援し、工程におけるボトルネックを検証、改善策を検討した。

 ボトルネックの解消を図るため、一本針本縫ゴザミシンの導入による畳表の縫い合わせ加工への対応、自社設計ミシン用バインダーの設計開発による工程の排除を実施、結果畳ガジェットの生産効率は2.8倍にまで高まり、生産の安定化に成功した。

 

③販売網を拡大するプロモーション支援

 設定したターゲットが分布する市場へのアクセス方法を共同で検討、完成した試作品を音楽フェスやハンドメイド祭典などに持ち込みダイレクトマーケティングを実施。

 また、クラウドファンディングMakuakeを活用した宣伝方法を検討、実行を計画している段階である。

 

④計画に基づく着実な事業遂行支援

 ①~③までの取組は事業承継計画を作成し、それに基づいた実行活動をフォローアップした支援結果である。

 同計画が承継を契機に経営革新が図られる内容であると判断し、平成29年度事業承継補助金に申請、採択を受けると共に経営力向上計画の認定を受けた。計画実行に当たっての設備導入、試作材料の確保に有効に活用する事ができた。

(5)総括的な成果等

◆定性効果

 事業継続のターニングポイントを、チャンスへと変貌させる事ができた支援事例であると考える。円滑な事業承継はもちろん、新規事業への展開を短期的に実現する事ができた。

 

◆定量効果

 BtoCへの訴求展開をきっかけに、低減を続けていた売上高は前年比25%増を達成した。

 

◆今後の支援課題

 各種販促媒体への露出を高め畳ガジェットを継続的に消費者へ訴求・販路拡大を目指していく。中長期的な視野で畳の認知・普及を図りつつ本業の強化を支援していく。

 

(6)事業者様の声

 先代から事業を引き継ぐという大きな転機を迎えプレッシャーとやる気が入り混じる中、あれもしなければ、これもしなければと頭の中が整理できずにいました。

 そうした中、商工会の支援を受ける事で自身の思い描く経営展望を整理・見える化する事ができ、着実に前に進んでいく事ができました。

 私にとっては経営パートナーでもある家族同様に、商工会のおかげで円滑な事業承継を達成できたものと思っています。本当にありがとうございました。

 


▮支援事例レポート